カイザースラウテルン工科大学の准教授に就きました

カイザースラウテルン工科大学の情報学部に准教授 (Junior Professor) として着任しました。また、研究室主宰者 (Principal Investigator; PI) として大学にPsybernetics Labを設立しました。

Junior Professorとはドイツの大学で教授と同様に独立した教育研究を行う若手教員ポストです。ドイツには日本のような教授・准教授・講師・助教といった区分がなく、博士号を取得後、さらにHabilitation (大学教授資格; 第2の博士課程とも呼ばれる) を得て教授になるのが従来のキャリアパスでした。Junior ProfessorはHabilitationに代わり2002年に導入された比較的新しい制度で[1]、Habilitationの抱えていた取得までの時間の長さや人材の海外流出などの問題を解消するために作られたそうです。Junior Professorを短く説明する日本語は「W1教授」「ジュニア・プロフェッサー」「准教授」などがあり、定まっていないようなので、文部科学省がまとめた『諸外国の高等教育』という本にならって私は准教授という言葉を使うことにします[2]

Psyberneticsは私が考案した研究分野で、Human-Computer Interaction・機械学習・認知心理学を扱って、ノーバート・ウィーナーが普及させたCybernetics[3]の制御可能領域を情報空間や物理空間だけでなく心理空間 (人のもつ情動や知識状態など) まで拡大することを目標にしています。お気付きの方もおられる通り、稲見先生が考案されたウィーナー界面に着想をいただいています。

アーサー・チャールズ・クラークの「道具が人を発明した[4]」やアンディ・クラークの「人は生まれながらのサイボーグ[5]」といった言葉のように、人は技術の開発と技術による能力獲得を繰り返して進化する生物です。私は2017年のTEDxNagoyaUでCognitive Cyborgsのタイトルでトークして以来「AIを身にまとった人はどのような能力を獲得あるいは手放していく (べき) だろうか」という問いに興味を持っていて、2019年にまとめたD論ではMeta-Skill Augmentation (能力獲得のための能力拡張) のシステムを提案しました。Psybernetics Labでは能力獲得のプロセスや能力拡張がもたらす心の変化を明らかにしていくことで人とAIが共に賢くなる社会の実現を目指します。

今回の就職活動については「長かった!」というのが正直な感想です。ドイツの大学教員招聘手続きにかかる期間は通常6ヶ月から2年かそれ以上らしく、私のケースでは2年以上かかりました。それだけ多くの方が関わってくださっており、大学内外、国内外のご協力いただいた皆様には感謝いたします。

本業は大学業務に移りますがDFKIやAlphabenでも活動を続けます。3拠点での教育・研究・開発で良い相乗効果が生まれるよう、今後もやっていきます。任期のあるポストなので落ち着いたら次の職についても探し始めたいと思います。


  1. 必須ではなくなったものの、現在もHabilitationを重視する分野もあるそうです。 ↩︎

  2. 本では准ではなく準の漢字が使われていました。 ↩︎

  3. "We have decided to call the entire field of control and communication theory, whether in the machine or in the animal, by the name Cybernetics, which we form from the Greek χυßєρνήτης or steersman." – Norbert Wiener. Cybernetics or Control and Communication in the Animal and the Machine. ↩︎

  4. "The old idea that Man invented tools is therefore a misleading half truth; it would be more accurate to say that tools invented Man." – Arthur C. Clarke. Profiles of the Future: An Inquiry into the Limits of the Possible. ↩︎

  5. "For human beings, I want to convince you, are natural-born cyborgs." – Andy Clark. Natural-Born Cyborgs. ↩︎